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  • Hide Hayashi

約束

最終更新: 8月26日



 昭和40年代の話です。母子家庭の僕が母をひとり唐津に残して、東京の大学に出してもらうには、母との約束がありました。卒業後は唐津に帰り、博多の洋裁学校で裁断と縫製の技術を学び、母と共に洋裁店を続けてゆくというものです。やがて母は自分が見込んだ洋裁師と結婚させて、悠々自適の老後を送る。随分と自己本位で杜撰なビジョンですが、大正三年生まれの母にとっては自然な心情だったのです。

 昭和30年くらいまで、洋服は誂えるものでした。デザインを決めたら生地を選び、型紙に沿って生地を裁断し、何度も仮縫いをしました。

 やがて既製服全盛の時代となり、洋裁店は廃れます。母は故郷を捨て、大阪に転居しました。

 仕送りが途絶えたので、百合ヶ丘の寮を出てアルバイト学生となりました。少年の頃からの約束が反故となり、母には申し訳ない事だったけれど、僕は『自由』を得ました。

 平成17年に母がこちらで亡くなり、妻と二人きりの質素な野辺の送りを済ませて、散骨のため唐津に帰りました。母と僕と唐津とを繋いでいた細い糸も途切れてしまいました。




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